【相続・贈与の基本】相続税はいくらかかる?生前贈与や税金対策まで専門家がわかりやすく解説

2026年1月16日

  • 執筆
    河合 厚(税理士法人チェスター東京本店代表、東京国際大学特任教授)

新聞紙上等でよく目にする「相続」。私たちの意思にかかわらず父母や配偶者が亡くなれば相続は発生します。相続税の申告義務がある相続人や受遺者(遺言により遺贈を受ける人として指定された人)は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に相続税の申告、納税を行わなければなりません。これを過ぎると加算税や延滞税が課されますので、相続税・贈与税に関する基礎知識を会得し備えましょう。

第1部 相続の基本と相続税の全体像

相続対策を進める上でまず理解すべきは、民法で定められた「相続」の基本ルールと、相続税における「財産の定義」、そして厳守すべき「申告・納税のスケジュール」です。

1-1 相続とは?民法の定める基本ルール

相続とは、被相続人(亡くなった人)の財産(権利義務)を、残された家族などが引き継ぐことをいいます。相続では、亡くなった人を「被相続人」、財産などを引き継ぐ人を「相続人」といいます。人が死亡した場合に、誰が相続人となり、何が遺産に当たり、亡くなった人の権利義務がどのように承継されるかなど、相続の基本的なルールは民法において定められていて、この部分は相続法とも呼ばれています。相続において、遺言書がある場合は、原則としてその内容が優先されますが、遺言書がない場合などには、民法の相続のルールに従って、遺産分割協議により、決められた人が決められた分を相続することになります。

(1)法定相続人

民法では相続できる人(相続人になれる人)の範囲を定めており、これを「法定相続人」といいます。法定相続人となるのは、亡くなった人の配偶者と血族相続人(子や父母、兄弟姉妹など血縁関係のある人)です。子には養子や法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子、胎児も含まれます。なお、内縁関係にある人、離婚した元夫や元妻は法定相続人に含まれません。

(2)法定相続人の順位と範囲

  • 常に相続人となる者: 被相続人の配偶者は、常に他の血族相続人と一緒に相続人となります。
  • 第1順位:被相続人の子(子が既に死亡している場合は孫などの直系卑属)。
  • 第2順位:第1順位の人がいない場合、被相続人の直系尊属(父母、祖父母など)。
  • 第3順位:第1順位および第2順位の人がいない場合、被相続人の兄弟姉妹(兄弟姉妹が既に死亡している場合は甥・姪)。

この順位に従い、上位の人がいる場合は下位の人は相続人になりません。

(3)法定相続分(各相続人が受け取るべき割合)

法定相続分は、遺産分割の目安となる割合で、例えば「配偶者と子」が相続人の場合、配偶者が2分の1、子が2分の1(複数いる場合は等分)と定められています。

ただし、この法定相続分はあくまで目安であり、財産の分割方法を決定するにあたっては以下の順位によります。

1)遺言書:被相続人の遺言書に記載された内容が最優先されます。
2)遺産分割協議:遺言書がない場合や、遺言書の内容と異なる分割を望む場合は、相続人全員による遺産分割協議を行い、全員の合意をもって分割方法を決定します。
3)法定相続分:遺産分割協議が整わない場合に、法定相続分が目安として適用されます。

1-2 相続財産の定義と「みなし相続財産」

相続税を計算するための「相続財産」は、民法上の財産と、税法上の財産とでその範囲が異なります。

(1)本来の相続財産(民法上の財産)

被相続人が所有していた全てのプラスの財産(預貯金、土地・建物、株式、貴金属、骨董品など)に加え、全てのマイナスの財産(債務)(借入金、未払金、医療費など)が含まれます。

(2)みなし相続財産(税法上の財産)

民法上の相続財産ではないものの、被相続人の「死亡」を原因として相続人が受け取る財産で、相続税の課税対象となります(「みなし相続財産」といいます。)。代表的なものとして、死亡保険金と死亡退職金があります。これらのみなし相続財産には、それぞれ非課税枠が設けられており、有効な節税対策の一つとして機能します。

死亡保険金・死亡退職金の非課税枠 = 500万円 × 法定相続人の数

(3)非課税財産

社会的な慣習や公共の福祉の観点から、相続税が課税されない財産も存在します。具体的には、墓地、仏壇、仏具、祭具など、祭祀(さいし)に関する財産がこれに該当します。ただし、節税目的で購入した純金の仏像やおりんなどは税務調査によって課税対象と判断される可能性があります。

1-3 相続税の申告・納税スケジュール

相続開始から申告・納税までの大まかな流れは次のとおりです。遺産分割協議や相続税の申告書の作成に時間を要することが多いため、準備は早めに開始しましょう。

(1)相続開始から相続税の申告までの流れ

1)相続開始(被相続人死亡):相続手続きがスタートします。
2)遺言書の確認等:遺言書を確認するとともに、法定相続人および相続財産を確定します。
3)遺産分割協議の実施:遺言がない場合や、遺言と異なる分割をする場合に行います。
4)相続税の申告と納税:被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に、申告と納税を完了します。

(2)申告期限を過ぎた場合のペナルティ

相続税の手続きには期限が設けられており、申告期限を過ぎて申告と納税を行うと、以下のペナルティが課され、税負担が増加するため、期限内に正しい内容の申告を行うことが不可欠です。

1)無申告加算税:期限内に申告をしなかったことに対するペナルティです。
2)重加算税:財産を隠蔽したり、仮装したりするなど、意図的な不正行為があったと税務署に判断された場合に課される最も重いペナルティです。
3)延滞税:納付が遅れたことに対する利息に相当するペナルティです。

第2部 「相続税はいくらかかる?」計算の仕組みを理解する

相続税対策の第一歩は、ご自身の家庭に相続税が発生するかどうか、また発生する場合にいくらになるのかを把握することです。相続税は、遺産の総額に直接税率をかけるのではなく、ステップを踏んで算出します。ここでは、その計算の仕組みについて解説します。

2-1 相続税が「かからない人」のライン:基礎控除額

相続税は、全ての相続に課税されるわけではありません。「基礎控除額」を超えた部分に対してのみ課税されます。この基礎控除額が、相続税の課税対象となるか否かの判断ラインとなります。

(1)基礎控除額の計算

基礎控除額は、法定相続人の人数に応じて決まります。計算式は以下のとおりです。

基礎控除額 = 3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)

例えば、法定相続人が配偶者と子2人の合計3人の場合、基礎控除額は3,000万円 + (600万円 × 3人) = 4,800万円となります。遺産の総額がこの4,800万円以下であれば、相続税はゼロとなり、原則として申告の必要はありません。

(2)法定相続人の数の確定

基礎控除額の計算の基となる法定相続人の数え方には注意が必要です。

1)相続放棄:相続放棄をした人がいても、その人は法定相続人の数に含めて計算します。
2)養子:基礎控除額の算定対象の法定相続人の数に含められる養子の数には制限があり、実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までです。

2-2 課税価格の計算

相続税の計算をスタートするには、まず「課税価格」を把握しなければなりません。相続や遺贈によって財産を取得した人ごとに財産を合計し、そこから債務などを差し引いて、相続税の課税対象となる金額(課税価格)を確定します。

(1)相続財産の合計額

第1部で解説した本来の相続財産(預貯金、不動産、株式など)とみなし相続財産を全て合計します。みなし相続財産に死亡保険金や死亡退職金がある場合、その非課税枠を差し引くことができます。

(2)相続時精算課税適用財産の加算

相続時精算課税適用財産の贈与時の価額(令和6年1月1日以後は、贈与を受けた年分ごとに、相続時精算課税贈与に係る基礎控除額を控除した残額)を相続税の課税価格に算入します。

(3)債務と葬式費用の控除

相続財産から差し引くことができるのは、主に被相続人の債務と葬式費用です。

1)債務:被相続人が負っていた借入金、未払いの医療費、公共料金、所得税などで、相続財産の総額から差し引くことができます。
2)葬式費用:葬儀社への支払い、火葬・埋葬費用、お布施、戒名料など葬儀に関連する費用は控除できます。ただし、香典返しや、四十九日などの法事の費用は控除の対象外です。

(4)贈与の加算(持ち戻し)

相続、遺贈や相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得した人が、相続開始前一定期間内に被相続人から暦年課税贈与を受けていた場合、その贈与財産の価額を相続財産の価格に持ち戻して計算します(第3部3-3(1)参照)。なお、基礎控除額(110万円)以下の贈与財産の価額も加算対象となります。

贈与の加算(持ち戻し)の計算方法

これらを経て、各人の課税価格を求め、最終的な「課税価格の合計額」を算出します。

課税価格の合計額 = 各人の課税価格の合計

2-3 相続税の計算の流れ

課税価格の合計額が算出できたら、各ステップを踏んで、各人ごとの相続税額を計算します。この過程でステップ2およびステップ3の「誰が実際にどれだけ財産を取得したか」に関わらず、法定相続分で取得したと仮定して算出税額の計算を行うことが特徴です。

ステップ1:相続税の計算の基礎となる課税遺産総額を算出します。

課税遺産総額 = 課税価格の合計額 - 基礎控除額

ステップ2:課税遺産総額を、法定相続人が法定相続分通りに取得したと仮定して分割します。

各法定相続人の法定相続分に応ずる取得金額 = 課税相遺産額 × 各法定相続人の法定相続分

ステップ3:ステップ2で計算した各法定相続人の法定相続分に応ずる取得金額に、以下の速算表に基づき税率等を適用して各法定相続人ごとの算出税額を求めます。

相続税の速算表

相続税の速算表

出典:国税庁「タックスアンサーNo.4155 相続税の税率」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4155.htm)

ステップ4:ステップ3で計算した、各法定相続人ごとの算出税額を全て合計し、その相続全体にかかる「相続税の総額」を確定します。

相続税の総額 = 各法定相続人ごとの算出税額の合計

ステップ5:ステップ4で求めた相続税の総額を、各人の実際の取得割合に応じて按分(割り振り)し、各人ごとの相続税額を計算します。

各人ごとの相続税額 = 相続税の総額 × 各人の課税価格 ÷ 課税価格の合計額

2-4 相続人の状況に応じた税額控除等の適用

ステップ5で計算した各人ごとの相続税額が、そのまま納税額となるわけではありません。ここから、特定の条件を満たす相続人については、税額を軽減するための「税額控除」が適用されます。 

主なものとして配偶者の税額軽減、未成年者控除、障害者控除などがあります。また、その一方、相続税額が加算される場合もあります。

(1)配偶者の税額軽減

配偶者が相続した場合、以下の金額のうちいずれか多い金額までは、相続税が非課税になります。例えば、課税価格が3億円でも、配偶者がそのうち1億6,000万円を取得すれば、その配偶者の相続税はゼロになります。この特例は、配偶者の老後の生活保障という観点から設けられており、極めて大きな節税効果を発揮します。ただし、この特例を適用するためには、相続税の申告期限までに遺産分割が確定していることが要件となります。

  • 1億6,000万円
  • 配偶者の法定相続分相当額

 (2)未成年者控除と障害者控除

1)未成年者控除:相続人が18歳未満の場合に適用されます。18歳になるまでの年数(1年未満切り上げ) × 10万円が税額から控除されます。

2)者控除: 相続人が障害者の場合に適用されます。85歳になるまでの年数(1年未満切り上げ) × 10万円(特別障害者の場合は20万円)が控除されます。

3)控除しきれない額:控除額が、その相続人本人の相続税額より大きいため控除額の全額が引き切れない場合は、その引き切れない部分の金額をその相続人の扶養義務者(注)の相続税額から差し引きます。
(注)扶養義務者とは、配偶者、直系血族および兄弟姉妹のほか、3親等内の親族のうち一定の人をいいます。

(3)その他の税額控除

相続税の税額控除は、上記(1)および(2)のほか「贈与税額控除(暦年課税贈与)」、「相次相続控除」、「外国税額控除」、「贈与税額控除(相続税精算課税贈与)」があります。

(4)相続税額の2割加算

上記(1)から(3)とは逆に、相続税が増加するケースもあります。被相続人の配偶者、子、父母(一親等の血族)以外の人が相続や遺贈によって財産を取得した場合、その取得した財産にかかる相続税額が2割増し(2割加算)になります。これに該当するのは、主に孫(代襲相続を除く)や兄弟姉妹、または血縁関係のない人です。

2-5 具体的な相続税の計算例

【前提条件】
相続財産(課税価格の合計額) 20,000万円
相続人 配偶者、子A、子B
遺産分割協議による分割額 配偶者 6,000万円 子A 8,000万円 子B 6,000万円 

1.基礎控除額の計算

3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円

2.課税遺産総額の計算

20,000万円 - 4,800万円 = 15,200万円

3.各法定相続人の法定相続分に応ずる取得金額の計算

配偶者の取得金額 15,200万円 × 1/2 = 7,600万円
子Aおよび子Bの取得金額 15,200万円 × 1/2 × 1/2 = 3,800万円

4.各法定相続人ごと算出税額の計算

配偶者の相続税額 7,600万円 × 30% – 700万円 = 1,580万円
子Aおよび子Bの相続税額 3,800万円 × 20% – 200万円 = 560万円

5.相続税の総額の計算

1,580万円 + 560万円 × 2人 = 2,700万円

6.各人ごとの相続税額の計算

配偶者の相続税額 2,700万円 × (6,000万円 ÷ 20,000万円)=  810万円
子Aの相続税額 2,700万円 × (8,000万円 ÷ 20,000万円)= 1,080万円
子Bの相続税額 2,700万円 × (6,000万円 ÷ 20,000万円)=  810万円

7.各人の納付税額の計算

配偶者の相続税額 810万円 – 810万円(配偶者の税額軽減)= 0円
子Aの相続税額 1,080万円
子Bの相続税額 810万円

第3部 生前贈与の基本と賢い活用法

相続税対策の「入口」となるのが生前贈与です。財産を計画的に次世代へ移すための贈与税の仕組み、メリット、そして失敗を避けるための注意点について解説します。

3-1 贈与税の基本:暦年課税贈与

贈与税は、個人から贈与を受けた際にかかる税金です。贈与の課税方法には「暦年課税贈与」と「相続時精算課税贈与」の2種類があり、「暦年課税贈与」は最も一般的な生前贈与の手法として利用されています。

(1)贈与税の課税方法と年間110万円の基礎控除額

暦年課税贈与とは、1月1日から12月31日までの1年間(暦年)に贈与を受けた財産の合計額に対して課税される制度です。
暦年課税贈与の特長は、年間110万円の「基礎控除額」が設けられている点です。

贈与税の課税価格  = 1年間の贈与総額 – 110万円(基礎控除額)

この基礎控除額以下の贈与であれば、贈与税は非課税となり、原則として贈与税の申告も納税も不要です。この非課税枠は、贈与を受ける人(受贈者)ごとに毎年適用されますので、例えば、祖父が孫2人に毎年110万円ずつ贈与する場合、合計220万円を非課税で移転できます。

この制度を長期間にわたり、複数の受贈者に対して計画的に実行することで、最終的な相続財産を大きく圧縮する効果が得られます。

ただし、非課税だからといって手続きを怠ると、「名義預金」(後述)と見なされるリスクがあります。毎年、贈与の意思を明確にし、受贈者が財産を自由に管理・使用できる状態を確保することが大前提となります。

(2)贈与税と相続税と比較した際の税率の違い

贈与税の税率は、基礎控除額を超えた部分の金額に対して適用され、「特例贈与財産」に係る「特例税率」と「一般贈与財産」に係る「一般税率」の2種類に分かれています。

1)特例税率(特例贈与財産に該当する場合):直系尊属(祖父母や父母)から、18歳以上の子や孫への贈与に適用される税率です。一般贈与よりも税率が低く設定されています。
2)一般税率(特例贈与財産に該当しない場合):例えば、兄弟間、夫婦間、父母から未成年の子、甥・姪への贈与など特例贈与財産に該当しない場合に適用される税率です。
3)贈与税の税率は、相続税の税率と比較して高く設定されています。例えば、贈与税の基礎控除額後の課税価格が1,000万円の場合、贈与税(特例贈与)の最高税率40%ですが、相続税の法定相続分に応ずる取得金額が1,000万円の場合、相続税の税率は10%です。

(3)生前贈与加算

被相続人が亡くなる日以前3年以内(令和6年1月1日以後の贈与から7年以内へ延長)に行われた暦年課税贈与については、その贈与財産の価額を相続財産の価格に加算します。これを「生前贈与加算」といい、基礎控除額110万円以下の贈与についても加算対象となります(詳細は3-3(1)参照)。

3-2 贈与税の基本:相続時精算課税贈与

「相続時精算課税制度」は、原則として60歳以上の父母または祖父母から、18歳以上の子または孫へ贈与する際に選択できる制度です。

(1)相続時精算課税制度における年間110万円の基礎控除額

令和5年度改正により、令和6年1月1日以後の贈与から、相続時精算課税制度にも年間110万円の基礎控除額が設けられ、年間110万円以下の贈与は贈与税の申告も相続時の持ち戻しも不要となりました。

(2)2,500万円の特別控除

相続時精算課税制度には2,500万円の特別控除額があります。この特別控除額を利用すると贈与額の累計で2,500万円まで贈与税が非課税となります。2,500万円を超えた部分には一律20%の贈与税がかかります。そして、贈与者が亡くなった際、この制度を利用して贈与した財産の価額を相続財産の価格に加算し、相続税を計算します。既に納めた贈与税があれば、相続税から控除します(相続税額から控除しきれない相続時精算課税に係る贈与税相当額については還付を受けることができます。)。


【メリット】
1)基礎控除額以下の贈与は暦年課税贈与のように生前贈与加算の対象となりません。
2)評価額の固定:将来、値上がりが確実視される財産(例:開発予定地の不動産、非上場企業の自社株)を、評価額の低い段階で贈与し、将来の値上がり分を非課税で次世代に移転できます。
3)税が課税されない:2,500万円までの特別控除(基礎控除額を含めると2,610万円)を適用することで、まとまった額の贈与を行っても贈与税は課税されません。

【デメリット】
1)暦年課税贈与に戻れない:一度この制度を選択すると、その贈与者と受贈者の間では、生涯にわたり暦年課税贈与に戻れなくなります。
2)小規模宅地等の特例の適用外:この制度で贈与された宅地には、相続税の小規模宅地等の特例が適用できません。
※「小規模宅地等の特例」とは、相続税の計算上、一定の要件を満たす場合、被相続人が居住していた宅地や事業に使っていた宅地などの評価額を大幅に減額できる制度です。

3-3 相続税対策としての生前贈与の落とし穴

生前贈与を計画通りに成功させ、節税効果を得るためには、税法上の「落とし穴」を避ける必要があります。特に「生前贈与加算」と「名義預金」は、対策が失敗に終わる主要な原因となります。

(1)贈与者の相続開始前一定期間内の贈与は生前贈与加算の対象

相続税法には、贈与者が亡くなる直前に行われた贈与について、その贈与財産の価額を相続財産の価格に加算し相続税額を計算するという「生前贈与加算」のルールがあります。具体的には、暦年課税贈与によって、相続開始日(被相続人が亡くなった日)から遡って3年以内(令和6年1月1日以後の贈与から7年以内へ延長)に法定相続人に対して行われた贈与財産の価額が加算対象となります。ただし、延長された4年間に贈与により取得した財産の価額については、総額100万円まで加算されません。このルールは、被相続人の死亡直前の駆け込み的な節税を防ぐために設けられています。

【税制改正のポイント】
令和5年度税制改正により、この持ち戻し期間は段階的に延長され、最終的に7年となります。この改正により、生前贈与による節税効果を得るためには、より早い時期から対策を開始することが不可欠です。

なお、生前贈与の加算対象期間は延長されましたが、法定相続人ではない孫や子の配偶者への贈与は、この生前贈与加算が適用されない(例外:孫が①生命保険の受取人となる、②遺贈される、③代襲相続人となる場合)ことについての改正はありませんでした。そのため、生前贈与加算のリスクを回避しつつ、次の世代へ財産を移転する有効な手段となります。

(2)名義預金と判断されないための重要な手続き(贈与契約書、口座の管理)

「名義預金」とは、口座名義は子や孫になっているものの、実質的な所有者(帰属者)が父母や祖父母であると税務署に判断される預金のことをいいます。税務調査において、子や孫への贈与が成立していないと判断された場合、相続時にその全額が相続財産に加算され、追徴課税の対象となる可能性があるため注意を要します。

贈与を成立させるためには、以下の手続きを徹底し、贈与の事実と受贈者の管理下にあることを明確にする必要があります。

1)贈与契約書の作成と保管:贈与者(あげる人)と受贈者(もらう人)双方の署名・押印がある贈与契約書を毎年作成し、贈与者・受贈者双方が保管します。これは、双方に贈与の意思があった動かぬ証拠となります。
2)受贈者名義の口座への振込:贈与は現金を手渡しではなく、受贈者本人の口座へ振込で行います。これにより、動かぬ証拠として、金額、日付、名義が記録に残せます。
3)受贈者による口座管理:預金通帳や印鑑を贈与者が管理(保管)せず、受贈者本人が管理・使用できるようにします。贈与された資金を、受贈者本人の判断で投資や生活費に充てるなど、自由に使っている実績を明確にしておくことが重要です。

特に、未成年の子や孫への贈与の場合、親権者が代わりに管理することになりますが、その場合であっても、資金の用途を明確に記録し、資金が贈与者によって管理されていない状態を証明できるように準備しておくことが大切です。

3-4 贈与税の非課税制度の活用

暦年課税贈与の年間110万円の基礎控除額だけでは対応しきれない、まとまった資金を移転させたい場合に利用できるのが、次の⑴から⑷の特定の目的を持った贈与制度です。これらの制度を利用すると、暦年課税贈与や相続時精算課税贈与とは別枠で大きな非課税枠を利用できるため、資金使途が明確な場合に節税効果が期待できます。さらに、これらの特例を利用して贈与された資金については、贈与者が死亡した場合でも相続財産への持ち戻しは原則不要です。

(1)教育資金の一括贈与の非課税制度

30歳未満の子や孫に対し、教育資金に充てるため、金融機関との一定の契約に基づき、一括贈与する場合、最大1,500万円までが非課税になる特例です。これにより、必要な教育費を将来の相続財産から切り離しつつ、教育資金を確保できます。

学校等に対して直接支払われる入学金、授業料などのほか、学校等以外の者に対して直接支払われる学習塾、習い事の費用など(限度額500万円)も対象となります。
本特例は平成25年4月1日から令和8年3月31日までの間の贈与に適用されます。

(注意点)

  • この贈与税の非課税の特例を受けるためには、金融機関等に対し「教育資金非課税申告書」を提出しなればなりません。
  • 資金は受贈者名義の教育資金口座で管理され、教育費等の支払いの都度、領収書を金融機関に提出して払い戻しを受ける必要があります。

(2)結婚・子育て資金の一括贈与の非課税制度

18歳以上50歳未満の子や孫に対し、結婚・子育て資金に充てるため、金融機関との一定の契約に基づき、一括贈与する場合、最大1,000万円までが非課税になる特例です。これにより、必要な結婚・子育て資金を将来の相続財産から切り離しつつ、結婚・子育て資金を確保できます。

結婚に際して支払う挙式費用や家賃・敷金等の新居費用など(限度額300万円)のほか、妊娠・出産・育児に要する不妊治療・妊婦検診や幼稚園・保育所等の保育料なども対象となります。
本特例は平成27年4月1日から令和9年3月31日までの間の贈与に適用されます。

(注意点)

  • この贈与税の非課税の特例を受けるためには、金融機関等に対し「結婚・子育て資金非課税申告書」を提出しなればなりません。
  • 資金は受贈者名義の結婚・子育て口座で管理され、結婚・子育て費用の支払いの都度、領収書を金融機関に提出して払い戻しを受ける必要があります。

(3)住宅取得等資金の贈与の非課税制度

父母や祖父母など直系尊属からの贈与により、18歳以上の子や孫がマイホームを取得または増改築の対価に充てるため資金を取得し、一定の要件を満たすときは、最大1,000万円(省エネ等住宅の場合。省エネ等住宅以外の場合には500万円)まで贈与税が非課税になる特例です。これにより、父母や祖父母から多額の資金援助を受けやすくなり、若年層の住宅取得を促進するとともに、計画的な相続対策にも活用できます。
本特例は令和6年1月1日から令和8年12月31日までの間の贈与に適用されます。

(注意点)

  • 贈与税が非課税となる金額内であっても、この特例の適用を受けるためには、必ず贈与税の確定申告を行う必要があります。
  • 「省エネ等基準」に適合する住宅用の家屋の場合、住宅性能証明書など一定の書類を贈与税の申告書に添付する必要があります。

(4)扶養義務者間の生活費・教育費の贈与

夫婦や親子、兄弟姉妹などの扶養義務者から生活費や教育費に充てるために取得した財産で、通常必要と認められるものについては贈与税が課税されません。ここでいう生活費は、その人にとって通常の日常生活に必要な費用をいい、治療費、養育費その他子育てに関する費用などを含みます。また、教育費とは、学費や教材費、文具費などをいいます。

なお、贈与税が課税されない財産は、生活費や教育費として必要な都度直接これらに充てるためのものに限られます。したがって、生活費や教育費の名目で贈与を受けた場合であっても、それを預金したり株式や不動産などの買入資金に充てたりしている場合には贈与税の課税対象となります。

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執筆者

河合 厚

税理士法人チェスター東京本店代表、東京国際大学特任教授

国税局国税訟務官室 主任訟務官、税務大学校 専任教育部 主任教授、国税不服審判所 審理部長、2か所の税務署長などを歴任し現職

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