50代・60代夫婦のためのNISA戦略|世帯で非課税枠3,600万円をどう使い切る?

2026年6月26日

  • 執筆
    松田 聡子(日本FP協会CFP®)

NISAは1人1口座で、1口座あたりの非課税保有限度額が1,800万円と決まっています。50代・60代の夫婦の場合、2人で3,600万円の限度額を使い切るようにすると、老後資金の多くをNISAで準備できるでしょう。この記事では、50代・60代の夫婦がNISAに取り組むメリット・デメリット、2人分の非課税枠の活用方法などを紹介します。

50代・60代がNISAに取り組む意義

投資は若いうちに始めるほうが有利ではありますが、50代・60代にとってもNISAは非常に有益な制度です。むしろ、この世代においても活用を検討できる理由があります。

60歳はまだ「運用の途中」である

50代・60代にとってもNISAが有効といえる大きな理由は、一般的な定年年齢の60歳からでも長期運用する時間が十分にあることです。厚生労働省の令和6(2024)年簡易生命表によると、50歳、60歳時点の平均余命は以下のとおりです。

【50歳・60歳の平均余命】

男性 女性
50歳 32.57年 38.24年
60歳 23.63年 28.92年

出典:令和6(2024)年簡易生命表/厚生労働省

女性の場合、60歳でも約30年、男性も20年以上の平均余命となっています。つまり、50代・60代からNISAに取り組んでも、長期運用の効果が期待できると考えられます。

また、一般的に子育てや住宅ローンが一段落し、NISAに回せる余裕資金も確保しやすくなる世帯も多いでしょう。旧制度に比べて非課税で投資できる金額の多い現行のNISAは、短期間で非課税投資枠を使い切ることもできます。このように、NISAは若年層だけでなく、50代・60代の資産形成にも活用しやすい制度といえます。

データで見る50代・60代のNISA活用の実態

実際にNISAの口座数や買付額に占める50代・60代の割合は少なくありません。以下は、金融庁が公表している2025年6月末現在のデータです。

NISA口座数
2025年6月末時点
年代別比率 NISA買付額
2025年6月末時点
年代別比率
10歳代 15万3866口座 0.6% 233億4732万円 0.2%
20歳代 312万9996口座 11.6% 6776億0288万円 6.5%
30歳代 472万4419口座 17.5% 1兆8049億7821万円 17.2%
40歳代 515万9263口座 19.1% 2兆1764億9723万円 20.7%
50歳代 524万6336口座 19.5% 2兆2904億6951万円 21.8%
60歳代 397万7471口座 14.8% 1兆9159億6374万円 18.2%
70歳代 299万4324口座 11.1% 1兆2146億2029万円 11.6%
80歳代以上 157万4426口座 5.8% 3973億4515万円 3.8%

出典:「NISA口座の利用状況(2025年6月末時点)」/金融庁

上記の表から、NISAの口座数に占める50代・60代の割合は約34%、買付額は約40%となっていることがわかります。このように50代・60代の旺盛な投資意欲が、NISAに向かっているといえるでしょう。

夫婦がNISAに取り組むメリット・デメリット

50代・60代の夫婦が協力してNISAに取り組むと、老後資金の形成においてさらに大きな効果が期待できます。夫婦がNISAに取り組むメリットとデメリットを見ていきましょう。

夫婦がNISAに取り組むメリット

夫婦がNISAに取り組むメリットには、以下のようなものが挙げられます。

非課税で投資できる金額が大きくなる

NISAは1人1口座が原則ですが、夫婦それぞれが口座を開設することで、年間投資枠は1人分の360万円から夫婦合計720万円に、非課税保有限度額は1,800万円から3,600万円へと拡大します。これは老後資金の形成において大きなアドバンテージといえるでしょう。

分散投資がしやすくなる

夫婦でNISAに取り組んで投資額が大きくなると、分散投資がしやすくなります。投資のリスクを軽減する方法の一つに分散投資がありますが、複数の投資対象に投資するには多くの資金が必要です。夫婦で協力して投資対象を分散すると、世帯全体の資産の値動きが平準化され、値動きの振れ幅を抑えやすくなると考えられます。

目的に合わせた柔軟な運用がしやすい

夫婦の一方が「老後の生活費」、もう一方が「旅行・趣味資金」など、用途別に資産を分けて管理できます。目的が明確になると、取り崩しの計画も立てやすくなります。

夫婦がNISAに取り組むデメリット

夫婦でNISAに取り組む場合、いくつかのデメリットも知っておく必要があります。

世帯全体の資産状況を把握しにくくなる

夫婦それぞれがNISAに取り組む場合、口座が2つに分かれるため、世帯全体のポートフォリオを一目で確認しにくくなります。定期的に夫婦で資産状況を共有する習慣づけや、同じ証券会社で口座を開設する、といった工夫が必要になります。

専業主婦(夫)の場合は贈与税が発生するケースも

専業主婦(夫)など収入のない配偶者のNISA口座に、もう一方が資金を提供する場合、贈与税がかかる可能性があります。贈与税の基礎控除額は年間110万円のため、1年間の贈与の金額(NISAの資金を含む)が110万円以内であれば贈与税はかかりません。ただし、NISAの年間投資枠はつみたて投資枠と成長投資枠を合わせると360万円です。贈与税の基礎控除を超える投資も可能である点に、注意が必要です。

NISAの非課税保有限度額を使い切るシミュレーション

NISAの非課税保有限度額(総枠)は1人あたり1,800万円、夫婦2人で3,600万円です。実際の投資額やペースは家計状況やリスク許容度に応じて検討する必要がありますが、NISAの非課税メリットを有効活用するには、なるべく早く非課税保有限度額を使い切ることも一案です。ここでは、非課税保有限度額を使い切る場合の、積立金額と積立期間を試算してみます。

1人分の非課税保有限度額1,800万円を積立投資で使い切るケース

まずは、1人分の非課税保有限度額1,800万円を積み立てる場合にかかる投資額と年数を見ていきましょう。

NISA非課税保有限度額1,800万円を使い切るシミュレーション

投資期間 毎月の投資額
5年(60ヵ月) 300,000円
10年(120ヵ月) 150,000円
15年(180ヵ月) 100,000円
20年(240ヵ月) 75,000円

2人分の非課税保有限度額3,600万円を積立投資で使い切るケース

次に、夫婦2人の非課税保有限度額3,600万円を積み立てる場合にかかる投資額と年数は、以下のとおりです。

NISA非課税保有限度額3,600万円を使い切るシミュレーション

投資期間 毎月の投資額
5年(60ヵ月) 600,000円
10年(120ヵ月) 300,000円
15年(180ヵ月) 200,000円
20年(240ヵ月) 150,000円

最短の5年で夫婦2人の非課税保有限度額を使い切る場合、1ヵ月あたり60万円の資金が必要です。家計や資産の状況を考慮し、世帯で最適な投資額を設定しましょう。

積み立てたNISAの資産を運用しながら取り崩すシミュレーション

続いて、夫婦2人で3,600万円の投資元本を運用しながら取り崩すと、何年で底をつくか試算してみましょう。前提条件は、5年間の積み立て(想定利回り2%)後に、2%で運用しながら取り崩すケースです。いずれの場合もあくまで試算なので、実際にはこのとおりになるとはかぎりません。

【5年後の元利合計を試算】

毎月60万円を5年間、年率2%で積み立てた場合の、5年後の元利合計は約3,781万円です。

【運用しながら取り崩した場合の受取期間】

3,781万円を年率2%で運用しながら毎月一定の金額ずつ取り崩していった場合、どのくらいの期間もつかを試算します。

毎月の取り崩し額 受取期間 受取期間(運用しなかった場合)
10万円 49年5ヵ月 31年6ヵ月
15万円 27年2ヵ月 21年
20万円 18年10ヵ月 15年9ヵ月

仮に取り崩しを始めるのが65歳からだとして、運用結果は市場環境によって大きく変動する可能性がありますが、運用しながらであれば試算上は、毎月10万円以上の取り崩しでも長期間資産が継続する結果となっています。資産形成や取り崩しのペースは世帯ごとにさまざまなので、上記を参考にご自身に最適なプランを考えてみましょう。

50代・60代夫婦のNISA活用例

夫婦でNISAを活用する最大の利点は、世帯全体で最大3,600万円という大きな非課税投資枠を確保できる点にあります。ライフステージによって最適な運用の形は変化するため、それぞれの年代に合わせた具体的な活用イメージを持つことが大切です。ここでは50代・60代それぞれの夫婦を想定した、具体的な活用例を紹介します。

50代夫婦の場合

50代は多くの方にとって、定年退職までの「最後の老後資金準備期間」といえます。公的年金の受給開始時期を考慮し、まずは15年程度でNISAの非課税保有限度額の使い切りを目指してみましょう。

仮に夫婦それぞれが毎月8万円ずつ、合計16万円を積み立て、2回のボーナス時にそれぞれ12万円ずつ一括投資をした場合(年間240万円)、15年間の投資元本は夫婦合計で3,600万円になります。
50代夫婦の活用で特に意識したいのが、夫婦間のリスク許容度の違いを世帯全体のポートフォリオ設計に活かすという考え方です。たとえば、以下のような役割分担が考えられます。

つみたて投資枠 成長投資枠
夫(リスク許容度:高) 全世界株式型インデックスファンド 先進国株式型インデックスファンド
妻(リスク許容度:低) バランス型ファンド(株式・債券混合) 国内債券ファンド

上記はあくまでも一例ですが、2口座あるため、どちらか一方の口座をより安定的な運用に、もう一方をやや積極的な運用に、といった使い分けができます。その場合、2つの口座を合わせ、世帯全体のアセットアロケーションとして捉えることもポイントです。

60代夫婦の場合

60代は定年退職を迎え、退職金が手元に入るタイミングでもあります。まとまった資金をNISAに活用できる点で、50代とは異なる選択肢が広がります。

NISAでは、つみたて投資枠(年120万円)と成長投資枠(年240万円)を合わせて年間360万円まで投資が可能です。夫婦2人でそれぞれ年間360万円ずつ、合計720万円を投資すると、最短5年で夫婦合計3,600万円の非課税保有限度額を使い切ることができます。

一括投資が可能な成長投資枠には年間240万円の上限があるため、たとえば、退職金が2,000万円であれば、全額の一括投資はできません。つみたて投資枠での積み立ても併用して、非課税保有限度額を使っていくとよいでしょう。

老後資金の運用では、インカムゲイン(配当金・分配金)を得る方法も有効といえます。老後は年金収入を柱としながら、不足分を投資の配当金・分配金で補てんできれば、元本を大きく取り崩さずに資産を維持しやすくなるためです。成長投資枠を活用した高配当株式やJリートは投資先の候補といえるでしょう。ただし、価格変動や分配金の変動リスクに留意が必要です。

つみたて投資枠と成長投資枠の使い分けとしては、以下のようなイメージが考えられます。

活用イメージ 目的
つみたて投資枠 インデックスファンド・バランスファンドの積み立て 長期的な資産成長
成長投資枠 高配当株式・Jリート 配当金によるインカムの確保

つみたて投資枠で長期的に資産を育てながら、成長投資枠の配当金を生活費の補填に充てる」という2段階の設計が、60代夫婦にとって現実的なアプローチの一つといえるでしょう。
※投資は元本保証ではないため、生活資金の確保や安全資産とのバランスも考慮して取り組むことが大切です。

50代・60代夫婦がNISAを活用するときのポイント

これまでの内容を踏まえ、50代・60代夫婦がNISAの活用において実践すべき具体的なポイントを解説します。

売却すれば繰り返し使える非課税保有限度額を有効活用する

50代・60代夫婦にとって、NISAの非課税枠の再利用は有効活用したい仕組みです。NISAで保有している商品を売却すると、売却した商品の取得額(簿価)分の非課税保有限度額が翌年1月1日に復活し、再び投資に使えるようになります。

たとえば、自動車の購入や住宅のリフォームなどでまとまった資金が必要になった場合に、NISA口座の資産を売却して現金化したとします。その後、売却によって空いた非課税枠分の投資が可能になるのです。

この仕組みを活用すると、一度非課税保有限度額を使い切ったあとに資産を取り崩しても、余裕資金があれば空いた枠での再投資ができます。そのため、資産寿命を延ばしやすくなるでしょう。

退職金などのまとまった資金は時間分散をする

50代・60代の場合、退職金をNISAで運用するのは、老後資金の有益な活用法といえます。ただし、NISAには年間投資枠があるため、枠を超えての一括投資ができません。その場合、退職金を数年に分けて、NISAで投資していくことになります。投資の時期を分散することで、一度に高値で購入してしまうリスクを避け、パフォーマンスを安定させる効果が期待できます。

非課税保有限度額の上限に達した後も運用を続ける

NISAの資産が非課税保有限度額に達してからも、慌てて全額を引き出さず、運用を続けましょう。現行のNISAは非課税保有期間が無期限のため、NISAの資産を持ち続けるだけで、運用益・配当金・分配金がすべて非課税で受け取れます。運用を続けながら必要な分を取り崩していくと、資産寿命の延伸につながります。

まとめ:NISAを活用した非課税運用で老後の生活を守ろう

50代・60代がNISAに取り組む意義は、非課税で資産を運用しながら取り崩し、資産寿命を延ばせる点にあります。現行のNISAは非課税期間の無期限化・投資枠の大幅拡大により、この世代にとっても十分に使いやすい制度となっています。まとまった資金の投資のタイミングや取り崩し方法がよく分からない場合などは、IFAのような専門家に相談してみるとよいでしょう。

執筆者

松田 聡子

日本FP協会CFP®

金融系ソフトウエア開発、国内生保法人営業を経て2009年に独立系FPとして開業。法人・個人へのFP相談業務の他、企業型確定拠出年金の導入企業への研修講師、FP受験講座の講師業務などを幅広く経験。現在は金融商品を販売しないFPとして中立な立場での相談活動の他、中小企業への確定拠出年金を中心とした退職金制度導入支援や、大手金融メディアなどで金融記事の執筆・監修業務も行う。

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